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サクラ大戦のレニに愛。テキスト中心、イラスト少々。シリアスとギャグ混在ぎみ。初めての方はAbout Meへ
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復帰一作目。


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まるでそれが一つの意志をもっているかのように動くその手と指。すました顔とその手がひとりの人間の意識下にコントロールされているとは思えぬような繊細な動き。



生きている手





ああ、空間が歪んでいくようだ…と織姫は思う。ヴァイオリンの奏でる音など、言ってしまえば弦の軋む音、その身を歪ませ、苦しみの声を上げているものでもある。世界中のヴァイオリンを愛するものたちはその音を聴くことをたいていは愛しているが(事実彼女はヴァイオリンを見て楽しむ人物は見たことはない)それがサディスティックでヴァイオレンスな趣味であることは気づいていない。そう、このピアノの音だって、そうだ。
―――それは愛しきものの叫び。


夏に向かう、相対的に少し澄んで見える日本の空に中庭のヴァイオリンの音が吸い込まれていく。この劇場では比較的よく見る光景であり劇場の平和を示すものの一つでもある。
ゆるやかで、豊かに響くこの音は彼女の弾くものに違いない。
「レニ、どうしてこんなところでヴァイオリンなんか弾いてるんですか?いつもだったら音楽室で弾いてるじゃないですかー」
「…なんとなく。今日は空の色がきれいだったから、空の色を見ながら見たら少し違うかな、って思っただけだよ」
中庭へのドアが開けられた音でヴァイオリンを弾いていた彼女、レニは瞳だけ動かして中庭へとやってきた客である織姫を一瞥するが、すぐに視線を元に戻してしまった。その手を動かすのをやめると彼女は俯いて構えていたヴァイオリンを下へと下ろした。
「…織姫こそ、なんで」
足もとに開いたまま置いていたヴァイオリン・ケースにそのヴァイオリンを仕舞って、ガチャンと閉じた。別に隠すつもりも隠さなくてはいけない理由もないのに、織姫にとっては何故かその行動が自分に「隠したい」のではないかと思ってしまった。
「レニの演奏が聴こえたからですよ。帝劇で生のプロフェッショナルな楽器の演奏ができるといったらレニしかいませんから」
「…それはどうも」
織姫に背を向けたままレニはそう答えるとヴァイオリン・ケースを持ち上げてすたすたと立ち去ろうとした。
「…客に向かってそれはひどすぎまーす!!私だって一応お金は払ってませんけど、今はレニの演奏の客だったんですよ?」
「お金は払ってもらってないから、ボクには演奏する義務はない。…これからやらなくちゃいけないことがあるから…帰る」
「…レニ」
無表情に澄ました顔をしてレニはヴァイオリン・ケースを持って着々とドアへと近づく。

「らしくないですよ」
「…何のこと」
「いつもならそんなに焦って弾かないじゃないですか。音も少し汚いです、何か、ひっかかってます」
「…そう」
ヴァイオリン・ケースを持つ手がぴくりと動いた。

「今日は指がうまく動かないんですか?」
「…分からない。少し薬指の付け根が、痛くて」
「そうですか」
レニは真っ白な手を広げてその動かしにくいのであろう薬指の付け根を見つめていた。単なる調子の悪い日であるだけだった、織姫には分かる。ぴく、と動く指はまるで脈打つようで、まるでそれだけで生きているようで。
「うまくいかない日くらい、あります」
「分かってる」
「…だって、レニの指は生きてますから」
レニが落ち込みも何もしていないことは織姫にとっては分かっている。調子が悪い日といして数ヶ月後には記憶にも残らない、何ということもない日になるのは明らかだ。だがまるで織姫はレニを励ますように軽く抱きしめた。レニも、この意図の読めない織姫の行動には慣れっこなので、今更驚きもしない。ただそっと、織姫のスカートを握るだけだった。

ゆっくりと織姫はレニを引き離す。何事もなかったかのような態度の織姫に、そしてレニ。そのまま二人は別れるが、織姫はその「何事もなかった」ことのない瞬間を確かに見つめていた。その一瞬はほんの一瞬で、彼女以外は一生分かることがないのだ、と自惚れにも近い感覚に浸った。

レニの手が、織姫が離れようとした瞬間に一度だけぎゅっとつかんでは織姫を引き寄せた。まるで彼女を捕えて放したくないと語るかのように、レニの手は一瞬だけ…何ということもない世界から離れていた。
織姫はその手に触れたいと思ったが、既に遠くに行ってしまったレニは背中だけしか見えない。けれど何か心が満たされたようで、ふと笑ってしまう。



離さないと主張する手は確かに生きていて、
一番生きていると感じさせられる瞬間。
捕えて、放したくないものを渇望する、人間の緩やかな欲望。
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