ハイカラ・ポスタァ２（マリかえ）

ハイカラ・ポスタァ：２

　賑やかなご婦人たちの声は大帝国劇場前の行列の一角より、いつものように聞こえてくる。いつも主に聞こえてくる内容は今回の公演の見どころはどこだとか、誰々のここが素晴らしいだとか、次回公演の予想などの話。本日の話のネタは、本屋に並ぶ雑誌の話であった。
「あのさくらさんが表紙のファッション紙見ました？今回も素敵なお洋服ばっかりで、さくらさんも舞台の上とは違う美しさだったわ！」
「あら、すみれ様が表紙だったあの経済誌の中にも素晴らしい着物を着たすみれ様の写真も何枚もあったって聞きましたわ！」
「そういえば映画雑誌に紅蘭さんも載ってたらしいですね！なんでも、舞台装置を設計する立場と役者の立場ではどう、だとか…」
「織姫さんも音楽雑誌の表紙らしいわよ！今は欧州でピアノのショウに大忙しなんですって！！」
「ねえ聞いた！？今本屋にマリアさんとカンナさんが表紙の本が売ってるって話よ！」
「ええーん、うっそー！？そんな本欲しくなっちゃうに決まってるじゃない！！あのカッコいい二人の表紙なんて…」
「それにその隣にはアイリスちゃんとレニさんの十代向けのファッション紙もあった、って話よ！」
「ああーん、花組の表紙の雑誌ばっかりじゃない！！全部欲しくなっちゃうわよ…」
「そういえば、あの美容室のポスタア見ました？あの茶髪の…」
「あぁっ、あの綺麗な女の人のポスタアね！見たわよ、とっても綺麗よねえ！」
『ご来場のお客様！大変長らくお待たせしました！！ただ今より入場券の確認を行います。なお当日券は…』
　大帝国劇場開演前の女性たちの井戸端会議は支配人、大神一郎の一言によって強制終了された。話の続きをするどころではなく、我先にと入場を急ぐ者ばかりであった。

　時は嵐のように、若しくは夢のように過ぎ、気づけば演目も終わりカーテンコールを終え全員は心地よい疲労感に包まれながら楽屋へと向かう。
「みんな、今日もお疲れ様」
　かえでがにっこりと微笑みながら、お客様から預かった花束やプレゼントの山を抱えていた。
「お疲れさまでした！」
「あーっ、なんか今日の舞台も一段と気持ちよかったぜ！」
「カンナはん、今日もあのアドリブ良かったと思うで！」
「ほんとっ、カンナすっごいおもしろかったよ！」
「もうっ、カンナったらいつも突然のアドリブばかりで、私の方が困るわ…」
「まぁ、いいんじゃない。いつものことだし…」
　花組の楽屋からは笑い声が絶えない。そんなとき、楽屋の扉が勢い良くあけられた。
「お疲れ様、みんな！」
「あら、大神くん？レディがいる部屋にノックも無しで入るのはダメよ？」
「あ…す、すいません…」
　大神は赤面して俯くと、かえでも含めた花組は大笑いした。

「そういえばみんなの出ている雑誌はみんな大好評みたいだね、モギリをしてるときにたくさん言われたよ」
「そ、そうなんですか？なんだかあたし恥ずかしいです…」
「みんなが写っているんだもの。今や花組はファッションのリーダーとも言われているのよ？」
「アイリスたちが、ふぁっしょんりーだー？…アイリスたちはやくしゃでしょ？」
「舞台はこの世を映すとも言うわ。そんな舞台に立つ私たちがリーダーというのも、恥ずかしいけれどとっても良いことだと思うわ」
「せやな、うちらが舞台を見てるとき以外もみーんなを楽しませてるなんて、とてもええ話やし」
「あ、そういえば…」
　大神はプレゼントを整理している手を止めると、顔を上げて花組の面々に尋ねる。
「みんなと同じように、ある美容室のポスタアに載ってる茶髪の女性もいろいろと噂されてたな。なんでも誰もその人のことは誰も知らないって」
「なんだよ、隊長、その女の人に興味があるのかい」
「いいっ！？」
「綺麗と評判の人ならだれでもいいんだ…軽蔑する」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ！」
　大神は冷や汗を垂らしながら弁解しようとするが
「お・お・が・みさん！鼻の下が伸びてますよー」
「おにいちゃんのサイアクー」
「はいはい、そこまでそこまで！支配人はただ噂を聞いただけって言ってるだけでしょう」
　マリアに助け船を出してもらえるまで、何も言い返せないのだった。