ハイカラ・ポスタァ４（マリかえ）

ハイカラ・ポスタァ４

　それからしばらくの間は、かえでは花組の面々と廊下で、ロビーで、お風呂で会うたびに気まずそうに目をそらしたり、「あの…」と何かを言いたげに話しかけるが何もないと言ったり、明らかに挙動不審な行動が目立つようになった。大神も何度もかえでに原因を聞いたりするが、かえでは「何でもないわよ！」とこれまた挙動不審な行動をとっていたが、その頑なに理由を話そうとしないかえでから理由を聞き出そうとは思えなかった。

　ついにその美容室“びいどろ”に訪れる日がやってきた。花組全員でただ一つのポスタアを見に行くというのはものすごく馬鹿げた話だったかもしれないが、各々が少し楽しみにしながらその日を迎えたのだった。

　帝都の人々のファッション・リーダー花組の銀座大行進はその後帝都日報やらさまざまな場所で大きく取り上げられたが、本人たちは全くそうなるとは思っていなかっただろう。彼女らは“びいどろ”まで行って、帰りには煉瓦亭なんかに寄って劇場に戻ろうなんて考えていただけだったのだから。
「ここが“びいどろ”ですね！噂のポスタアは…ああっ、あそこ！あそこです！」
“びいどろ”が見えてきた。噂どおりメトロから見える、とても人通りの多い場所だった。そのハイカラで豪奢な外観から、様々な雑誌で特集されていることが一見して分かる。さくらが指差した先に、噂のポスタアがひっそりと貼られていた。
「わあ、これが噂のポスタアやな！まあ噂のとおり、べっぴんはんやわぁ…」
　銀座の雑踏を髪をなびかせながら、その肩のあたりまでしなやかに伸びた髪の毛を軽くかき上げている女性の姿。俯いていることによってその顔の作りはよく分からないが、すらりと整った鼻筋に、長い睫毛と整った眉がさらにその美しさを際立たせていた。流れる茶色の髪は風に淀みなくその身を任せている。真っ白ではないが、日本人らしくうっすらと日に焼けた肌にくすみはなく、付きすぎず無さ過ぎない筋肉がとても健康的である。飾りも何もない白いワンピース、化粧っ気のない顔、とても彼女自身の美しさが際立つようなポスタアだった。
「でもさ…あたいなんだかこの人見たことあるような気がするんだよなぁ…」
「アイリスも見たことある気がする…」
「……」
　レニは相変わらず何も言わなかった。そして…
「……」
　マリアも驚いたように眼を見開いて、そのポスタアの女性を見つめていた。
　女性は俯きほほ笑む。まるで母のような姉のような、そんな錯覚を覚えながら花組はそのポスタアを見つめ、見つめ返されるような感覚があった。うっすらと紅の差された唇がまるで見る者を包み込むような、そんな優しさを持って。
　


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本番はこれからです。
ちなみにびいどろの出所は、うちの国語の教科書に載っていた梶井基次郎氏の檸檬という作品。ふつうにビー玉の意味です。
意味はとくにありません。