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サクラ大戦のレニに愛。テキスト中心、イラスト少々。シリアスとギャグ混在ぎみ。初めての方はAbout Meへ
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細すぎず太すぎず、
真っ白で長い指。
それでもとても小さく見えて、
この手が彼女の過去を抱えられたとは思えない。
暖かさで彼女の命を感じている。
この手が美しいメロディを奏でる。
旋律は激しく、ときに緩やかに。


あなたの為の組曲0番

冷たく、何も映していないようにぼうっとした青い瞳は最近この世界を映し始めたようだ。
白くふわふわとした毛並みのフント、中庭に咲く小さな花
そして花組のみんな
ときにはふわりと笑って、それらが何を意味するのか考えるように見つめていた。
彼女には彼女の周りの人間という存在が、何よりも哲学的な存在だった。


中庭のベンチに腰掛けて、自分の膝の上に載ろうとする白い犬を優しく抱え上げ、むんずとその頭を掴むと、がしがしと撫でた。
まるで何かを問いかけるように彼女を見つめて舌を出しながら息をする音。
何かを聞きたいのはこっちの方だ
そう思いながら、レニはその瞳を見つめる。
真っ黒な瞳。

彼女の生まれた場所では黒い瞳の持ち主はあまり居なかった。真っ黒な瞳。
それに見つめられること、最初は自分と違うことで妙な違和感を感じた。黒い瞳の持ち主は亜細亜人であることが多い。彼らだって、彼女を見つめられるたびにそう思っていたのだろう。
いつだろうか、そんな瞳に見つめられて、何か強く胸を掴まれるようになったのは。
「本当に、フントはレニに懐いてるね」
そんな張本人が彼女の元へとやってきた。

「隊長…どうしたの?」
「理由がなくちゃ、ここにいては駄目かい?」
「別に…かまわない…」
またそんな瞳で見つめられると、どうしようもなくなる。
大神はベンチに座るレニの隣に深く腰掛けた。

「ここはいいね。なんだか一番仕事を忘れられるよ」
「……」
暫くの沈黙と、そよ風が草木を揺らす音だけが彼らの耳に響いていた。それを打ち破ったのは大神の言葉だった。
大神の顔を覗き込むと、レニは言う。
「…どうして?」

「安らぎだとか、忘れられるだとか、そういうことはよく分からない。ボクはいつも…戦っていたから…戦いを忘れてしまうと、ボクの存在の価値はどこにあるのか分からないもの」
「…レニには分かっていないことかもしれない。でももしかして気づいてないだけなのかもしれないぞ」
「気づいてないだけ?」
レニがフントにするように、大神がレニの髪の毛を撫でる。
「いつも安らぎって、そばにあるものだよ」

「俺はただ一つ条件を満たせば安らぐって思うんだ。たとえそれが困ったときだろうと、つらいときだろうと」
「それが…安らぎなの?」
「少し矛盾してるかもしれないけどね」
「安らぎ…穏やかなゆったりとした気分。そんな定義のはず。困ったときやつらいときは、安らぎはあるはずがない」
「レニにはないかい?違う想いが心の中で混在することは」
「…たまに。ここに攻め込むといいことや、誰かがここを攻撃したらいいとか」
「レニらしいね。でもそうじゃなくて」

「違う思いが同時に生まれるんだ。同時に自分がいるみたいに、二人は違う考え方をしている。目の前の問題に立ち向かおうとしている自分と、ここにいる自分と」
「違うヴェクトルを向いてる、そう言いたいの?」
「そうとも言うかもしれない。今この瞬間…」
大神はレニの肩を抱き寄せて、そっとレニに語りかける。
「俺は安らぎを感じている」

「『安らぎ』がどんなことなのかって上手く説明できなくてもどかしい自分もいて、でも安らぎが確かにここにある」
「……」
「レニは何も思ってないのかもしれない。でも俺は…レニがそばにいるだけで安らぎを感じているよ」
「…そう…」
レニは俯いて、大神から目を離す。
「ボクも隊長が隣にいるときに感じるものがあるんだ。もしもこれが隊長の言う安らぎなら…」
レニのフントの頭を撫でる手が、ぎゅっとフントを抱きしめた。
「安らぎって、こんなに苦しいものなの?」

「ヴァイオリンで、悩む人物が書いた曲を弾くときに似ている。胸が詰まるような、喉が熱くなるような、そんな気持ち」
「それはつらいかい?」
「うん…まるで弦を強く抑えすぎて、切ってしまいそうなくらい。それからすぐに明るいテンポに変わると、どうすればいいのか戸惑う」
「人生はいろんなものが積み重なってできているからね。そう…まるで組曲みたいな感じだね」
「組曲…じゃあ安らぎも、組曲の中の一つなの?いつか明るいテンポにもなるの?」
「それはレニ自身の問題かな。これをどうやって解決するのかはレニ自身にかかっているから」
「隊長は今の安らぎは苦しくない?どうしてそんなに笑っていられるの?ボクと隊長の安らぎは全然違うものなの?」
段々とレニは今まで取っていた考える間をどんどん保てずに、大神へと思うがままに質問を続ける。
「どうしてこんな…」


「ボクって、変かな。隊長のことを思うと、胸が縛り付けられてると思うくらい、苦しくなる。隊長に見られる度にどうしたらいいのか分からなくなる。独り占めしてしまってもいいのか分からなくなる」
「レニは…それだけしか思わないかい?苦しい以外に、何も思わないかい?俺と一緒にいることは、苦しいだけなのかい?」
「違う…そうじゃなくて…どうすれば…いいのか…どう言えばいいのか、分からないよ」
今にも泣きそうな瞳をして、大神の目を見つめるとぎゅっと大神のワイシャツを掴む。
「もしもボクが普通の女の子みたいに育てられていたら、隊長のことをもっと楽しませられたのかなって思う。どういうときにどう思うのか、それが分からないから、隊長に上手く伝えられないし、受け取ることもできない。普通の子だったら持ってるものを失ってるから、ボクはきっと。自分の過去を呪うって、きっとこんなことかなって。…どう思われてるか、怖いよ」
「この指は、そんな組曲ばかり弾いて来たのかい?悲しいことや辛いこと、そんなことばかり」
レニの指を取ると、それにゆっくりと自分の指を絡めた。

「失ったものがあるなら、俺が埋めてみせる。…それじゃ駄目かい?」
「ボク、どうかしてるかな…このままじゃヴァイオリンも何もできないのに、ボクは…この手を離さないで居て欲しいと思う。ずっと繋いでいて欲しいと思う」
「今日から、そんな組曲が始まる、今までのことは忘れて、新しい日々が始まる。俺はずっとレニのそばにいるから…そう思ってみてもいいんじゃないかな」
「終わるまで、この手を離さないで居てくれる?」






いつか思い出になる日が来たら、この暖かい日のことを思い出す。
始まりは風が草を撫でる音、繋いだ手。
初めてボクが、安らぎを感じた日のこと。
伝えたい、
分からないことばかりで、不安でしょうがないけど、
悲しいだけじゃないんだって。
そう、見つめ続けてほしい。
この手を離さないでほしい。
あなたのそばに自分が居られることを、神様に感謝をして。
ボクはそう思って、ヴァイオリンを手に取る。
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