ハイカラ・ポスタァ１（マリかえ）

流れるような茶色の髪の毛が魅力的で
細長い手足
健康的に日に焼けた肌
俯く瞳の長い睫毛

そんな美しい女性の写った美容室のポスタアが銀座の人々の話題を攫った。
煌びやかすぎず、ハイカラすぎず、日本の女性としてのしとやかさを残した彼女のことについて誰一人知る者はいなかった。
きっと近いうちにあの帝国歌劇団と同じような雑誌の表紙を飾るようになるのだろう、そう思いながら、そのポスタアの前を通り過ぎている。



ハイカラ・ポスタァ：１

　銀座の人々、いや日本の人々といった方が良いのかもしれないが、すべての夢見る場所、大帝国劇場。ヴィクトリア調で統一され、２階建ての劇場である。そこで皆の注目を集めるのは今も昔も帝国歌劇団・花組。彼女たちは日本一有名な役者でもあり、そのためラジヲや雑誌に引っ張りだこ。最近では女性誌の表紙を専属モデルよりも飾ることも多い。彼女たちは役者としての夢の対象ではなく、人々のファッションの先導者としても認められている。
　日本的な美しさの光るさくらや、まるで人形のような愛らしさを持つアイリス、露西亜の血が流れ中世的な美を連想させるマリア…それぞれそんなアピールポイントを持つ彼女らに勝てるモデルはなかなかいなかったのである。

　そんなとき、ある美容室の前に貼られたポスタアに人々の目が奪われた。
　無駄な装飾もないシンプルな服やアクセサリ、髪の毛も茶色でどこにでもいるような、そんな女性が髪の毛を風になびかせている。
　ありきたりにも程がある構図だが、逆にそのモデルの美しさの際立っているポスタアだった。
　俯く彼女の睫毛にとても色っぽさを感じるが、それは厭らしさを感じるようなものではなく、内から出る魅力で、爽やかな色っぽさを湛えている。
　街ゆく人はそのモデルが誰なのか尋ね合うが、誰もそのモデルがいかなる人物なのか知ることがなかった。
　その謎のモデルは誰なのか。銀座の街はそんな疑問が飛び交っていたのである。