ミルキーウェイ１４（大レニ）

ミルキーウェイ・１４
―青い鳥は、ここに―

「最初はこんなに悲しいなんて思わなかった！気づいたときにボクは、そんな機能必要としていなかったから…それでも、隊長と出会って、その暖かい手に触れたときに…いつの間にか涙を堪えてた、喉が痛くて…どうして悲しいのかも分からなかった」
段々と、レニの目が虚ろになっていく。ふわりと風が吹いたようにレニの首に巻かれたスカーフが浮かび上がると、床の毛足の長い絨毯がレニの足元から凍っていく。
「悲しい理由に気づいたとき、ボクはみんなに申し訳なく思った…隊長はみんなの希望なのに、ボクは…ボクは……」
（これは…ゲシュタルト・エクスプローズィオン！？）
あまりにも強すぎるレニの霊力の解放に、目には見えない力が彼女の周囲で波打ち、エーリッヒにも大きな力が襲い掛かる。
「未来を、見ることができない……」
青い光が彼女を取り囲むように輝いて、その中で彼女は微笑む。

「こんな私なら、あなたと結婚して命を絶った方が…！！」
その霊力が一層強まったときに、力強く張った糸が切れたかのようにレニの足元の氷が砕け、放出されていた霊力が消えた。
「君を誰にも渡しやしないさ。そして死なすことも」
彼女の冷え切った身体を、強く暖かい何かが包み込んだ。力を失って崩れこむレニをその腕で、抱きかかえる。

「ほら、こんなに震えてるじゃないか。怖いんだ、まだ君は死にたくないんだ、だからこんなにも身体が震えているんだ」
耳元で囁く優しい声。心の氷がまるで溶けていくかのように、暖かくなる…
「た…い……ちょ…う……」
大神一郎。彼が優しく彼女を抱きしめていた。

「ミスター・シュヴァルツ、どうしたのですか、この騒ぎは」
大神が砕けたワイングラスを持ったエーリッヒに声をかける。レニの霊力解放を相殺させたせいか、大神の息も荒い。
「ミセス・ミルヒシュトラーセ…彼女の想いとでも言いましょうか、ミスター・オオガミ。私にはどうしようもできないことが分かりました」
「彼女は…私の大切な人ですから」
大神は意識の朦朧としているレニの両膝の裏に手を廻し、レニを抱えあげた。
「ミスター・シュヴァルツ、私はもう東京から離れるつもりはありません。そして…彼女を霊力を暴走させる目に会わせたこと…簡単に許したりはしない。そして彼女を渡したりもしないつもりだ」
「敗けを宣言するつもりはありません、ミスター・オオガミ。ですが今のところ私はあなたには勝てません。ではミスター・オオガミ、ミス・ミルヒシュトラーセ、ごゆっくり」
「待って、ヘル・シュヴァルツ。…一つ聞きたいことが」
「……なんでしょう、フロイライン・ミルヒシュトラーセ」
「あなたはさっき希望を作りたいと言った。あなたと私の希望を。…データ上で、私はそれが可能でしたか？」
「……はい、貴女は未来を紡ぐことができます。その可能性は十分ある、と…」
「ありがとう、ヘル・シュヴァルツ」
「それではお二方。私はこれで」

レニは大神の腕の中で幸せそうに微笑んでお腹に手を当てる。
「ボクにも…ボクも……無理じゃなかった…」
大神の胸の頬を寄せてお腹をいとおしそうに撫でた。
「ボクの…青い鳥……」
本当に安堵したためかポロポロと涙の溢れるレニを大神は抱える手に力を入れた。


「ボク、霊力を全解放してしまったの…？」
「そうみたいだね。もう少しゆっくりしておくといいよ」
「うん…」
客船の廊下を大神に抱かれて運ばれる。まだ意識はハッキリとしないが、ただ暖かい力を全身に感じていた。