謳歌絢爛５

謳歌絢爛５
～舞台袖にて・受難２～

「これでも誇り高き海の王者！」

　舞台の上で赤鮫のカンナが声高らかに歌う。協調性のない手下たちに囲まれながら（笑）愉快に歌うと客席から多くの笑い声が聞こえる。彼女は大柄で豪快だが、その親しみやすい雰囲気から人気も高い。彼女が歌を歌い終え、舞台袖にはけるが彼女が休む暇はない。彼女はすぐにまた出番を迎えるのだ。

　この赤鮫は公子の御殿を攻撃するが、公子の活躍によって撤退を余儀なくされるのだ。が、このシーンで着目する点は、マリアの美しい殺陣だけではない。カンナのユーモアあふれるセリフも人気の一つなのだ。このシーンではマリアも紅蘭も本気で笑っているのだという。

 

 

「どうしたの、紅蘭」

　舞台の上だというのに、紅蘭はとても浮かない顔をしていた。このカンナのシーンでは客の注目はカンナに注がれるため、マリアや紅蘭からは注意が逸れるのだ。

「だって…今はだれも照明のチェックをしてへんやろ…心配でしょうがないんや…」

「あなたがそんなに不安そうな顔をしていると、お客様も心配になるわ。とりあえず出番が終わるまでは照明のことは考えないで。出番が終わってからチェックすればいいわ」

「ちょっと心配やけど…やるしかあらへんな。まあ心配せんでがんばりますわ！」

　紅蘭の出番がようやく終わり、舞台の袖にはけるとそこには同じタイミングではけたアイリスと織姫がいた。

 

 

「はぁ…ワタシ、これからどうしましょう…」

「どうしたの、織姫」

　織姫も紅蘭と同じような浮かない顔をしていた。

「今日の朝、イタリアのママから連絡があって、ママの体の調子が悪いみたいです」

「えっ、それならイタリアに一度帰った方がいいよ！きっと花組のみんなも許してくれると思う」

「一度、ですか…」

「え…」

　織姫の言葉にアイリスは振り返った。

 

「公子様！」

　黒潮騎士団長役のレニが、公子のマリアを呼びかけると、マリアがレニの方へ振り向いた。

「っ…！！」

　そこには顔が真っ青のレニがいた。その笑顔をものすごくぎこちないもので、槍を持つ手すらも小さく震えており、マリアも見ていて心配になるものだった。

「今日は…もう休みなさい」

「はっ！」

　公子のセリフではあったが、マリアはもう自分の心からの言葉になっていた。レニはそのまま舞台袖まで歩くが、マリアにもしっかりとそのこめかみあたり流れる冷汗が見えていた。

 

 

「ライトは…大丈夫やな、ちょっと危なかったみたいやけど…」

　出番の終わった紅蘭が蒸気系統のパネルを見る。それから照明本体へと目を向けたが、少しだけ光り方に斑があり安定していないようだった。

「やっぱり…」

　紅蘭は照明に貼ったメモ書きをちらりとめくる。そこにはこの証明の使用に関しての必要事項が彼女の手によって書かれていた。

「最近の機材は、もう蒸気ではあかんのかな…」