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サクラ大戦のレニに愛。テキスト中心、イラスト少々。シリアスとギャグ混在ぎみ。初めての方はAbout Meへ
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マリかえSS(後).
ちょっと長めになるので、前後に分けます;;

「すべて」の後編。





すべて
-Side K-

 
 数えきれないほどに比べられた。
 何かをするたびに、お姉さんもそうだったといわれなかったことがなかった。
 頭が良くて綺麗な姉。誰からも尊敬され、自分も彼女を尊敬しない日は無かった。それでもよく思ったことは
「居なければ良かったのに」
 私が私として、認められることがなかった。
 何かができないと、周りからは「あやめなら出来るのに」と言われた。それが悔しくて克服して、ようやく何も言われない。最低ラインに到達する。
 その最低ラインにたどり着きたくて過ごしていた日々はまるで姉の人生をなぞっていたようだった。さらに自分を姉さんと比較するように進ませていた。
 周りから「やっぱり似ている」と言われないことはなかった。
 私の人生は姉への尊敬と嫉みの連続で出来上がっていると言っても過言ではない。
 
 華撃団構想の先駆けとして発足された欧州星組、かえではその司令となった。彼女としては珍しく、彼女の姉より先に行ったことではあったが、成功とは言い難い結果となった。
 しかしかえでが欧州に行った理由も、またあやめに似ているということが一つとしてある。多くのことばを話すことのできる姉。それを聞いたかえでもまた、いくつもの言葉を話すことができるようになった。しかし日本ではあやめがいたために、かえでは賢人機関に引き取られることになったのである。
 賢人機関にとってみればかえではあやめの代わりだった。しかしかえでからすれば、姉と違う道をようやく歩むことができるのだ、そう思ったのである。
 動機が少し不適切であるかもしれないが、そんな理由で彼女自身欧州星組が解散に至ったことは何の苦しみも持ってはいなかった。メンバーとは何かと接触が続いていたために、解散する前後で何も変わることはないのだと考えてもいた。
 そして、ある日かえではあやめの死を聞いたのである。
 
 誰よりも藤枝あやめを憎んでいた。そして彼女を愛していた。
 彼女の死は、かえでの人生の中にすっぽりと大きな穴をあけた。
 真似していたわけではない、しかし、これからの人生の道しるべを失ったような、そんな気分。あやめとは、かえでである。
 あやめが居なくなった今、かえでにできることは何なのか。
 それが、あやめの代わりに帝都を守る、という考えに行きついたのである。
 
 誰もがびっくりしていたようだった。見た目も声もそっくりな自分に、驚かないという方が難しいかもしれない。予想していたことである。
 それでも、やっぱり少し空しいという気持ちはある。
 
 しかし花組のメンバーと話をして分かってきたことがあった。
 あやめが、とても慕われ愛され必要とされていたことだった。
 空しいという気持ちが、次第に「私がそのポジションに立ってもいいのだろうか」という気持ちになってきたが、その度に「あやめの代わりに帝都を守る」のだという決意に励まされ、ここまでたどり着いた。
 しかし、大きな敵が現れた。
 あやめが最初に帝国華撃団に招き入れたという女性、マリア・タチバナである。
 
 任務時の言葉の端々から、あやめを慕っていたというのがひしひしと感じられる。そして自分を受け入れられないという態度も、感じ取っていた。マリア自身はきっと自分がこんな態度をとっているのだということを思ってもいないだろうが、かえでにはそれがひどくつらかったのである。
 
 彼女は、あやめを求めていた。あやめを必要としていた。
 そしてその姿を自分に求めていた。
 仕方ないこと、それは分かっているけれど、
 一番悲しいのは、自分なのだと言い切れる。
 道しるべであり、愛していた自分の姉。
 それを失った辛さと、それに重ねられる辛さが入り混じって
「馬鹿言わないで。私はあやめ姉さんとは違う。私は藤枝かえで、姉さんとは違うの」
 マリアの頬を強く叩いた。
 
 
「あやめ姉さんはもういないの!あやめ姉さんは私の大好きな人の一人よ…あなたに、その人と重ねられる私の気持ちが分かるというの!?」
 かえでの口から、今まで人に隠していた「こと」が流れ出る。マリアも、我を忘れたかのように不満を自分にぶつけるかえでに目を丸くしていた。
「だれも、私のことなんて認めてくれないもの…」
 そしていつの間にか涙がぽろぽろとあふれていたかえでは、すべての書類を自分の部屋に押し込むように床の上を滑らせて仕舞いこむと、マリアに背を向けて扉の中へ入ってしまった。
 
「かえでさん!私は…っ!!」
 がちゃりと強く鍵を掛けられてしまった扉に力なくマリアは倒れこむ。額に無機質な冷たい感触。いつの間にか火照っていたのだと感じさせられていた。
「私は…あやめさんのことを尊敬もしていますし、愛してもいます」
 ドア越しに、マリアがそう呟くのを背中で聞いていた。かえではドアまで寄って、背中をドアに預けた。
 涙は相変わらず止まらなかった。
(あやめとそっくりね、本当に。好きなものも良く似ているし、得意なことも似ているわ)
 そんな両親の言葉をふと思い出した。
 
 遺骨も何もない姉さんの葬儀はひっそりと行われたらしいが、私は出席することはできなかった。
そして、帝国華撃団に着任する前に藤枝家に戻ったときに、あやめからのメモと形見である神剣白羽鳥を受け取ったのだった。その夜、その刀を胸に抱き人知れず泣いた。まるで今みたいに、子供のように泣いた。
 
「私はあやめさんがいなければ今生きていません。生きていたとしても、もっと人間として腐りきっていたと思います」
(どうして死んでしまったの、姉さんっ!!私は、あなたがいないと…!)
「私は、かえでさんにあやめさんを求めていたことも確かです」
(私は、あなたでいることに慣れていたのかもしれない…)
「でも、それだけじゃない…」
(みんな、私なんて必要ないの、姉さん)
「あなたはあやめさんじゃありません」
(みんな、姉さんを必要としているのよ)
 
「あなたはあやめさんじゃありません。あやめさんは私の中で一人だけ…それは変えられない事実です」
 ドアの向こうのマリアはどんな顔をしているのだろう。嬉しい顔?怒った顔?悲しい顔?楽しい顔?
「かえでさんはあやめさんの大切な家族です。だからこそ、あなたのことをもっと知りたいと思います。あやめさんが大好きだったあなたのことを知りたいと思います」
 とても見てみたいのよ、とても信じてみたい。
「あなたのことを、大好きになりたいです」
 とてもあなたを好きになってみたいと、思えたの。
 
 
 
「それを、信じてもいいの?」
 ドアはその言葉と共に開かれた。
 
「私は誰からも藤枝かえでとして必要とされることはなかった。みんなはあやめを必要としていたもの」
「私は…そんなことしません」
「マリアは…かえでを受け入れてくれる?」
「…もちろんです、かえでさん」
「……嬉しいわ…」
 かえではつま先立ちになってマリアに抱きついた。マリアはかえでをよしよし、というようにその髪を撫でた。
「ありがとう…」
 
 
 
あやめ姉さん
あなたはわたしたちのすべてだから
わたしたちはあなたを今でも思い続けている。
だからこそ、わたしはあなたにはなれないって、わかったの。
 
あなたのすべてで、
これからのすべてを作っていくわ、姉さん…
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